メタ認知とは?子どもの「考える力」を育む方法

近年、子どもたちに必要な力として注目を集めているのが「メタ認知」です。聞き慣れない言葉かもしれませんが、教育や人材育成の現場で重要視され、文部科学省も学習指導要領に盛り込むなど、その価値はますます高まっています。
インターネットやAIが発達し、社会や価値観が大きく変わる今、子どもたちが自分で考え、行動するために、メタ認知は欠かせません。
今回は、メタ認知の意味や子どもにとっての重要性、発達の過程、そして家庭でできる育て方をご紹介します。
子どものメタ認知とは?
まずは、メタ認知がどのような力で、なぜ大切なのかを知るところから始めましょう。
メタ認知の定義
メタ認知とは、一言でいえば「自分を一歩引いて見つめる力」です。心理学では「認知についての認知」と呼ばれており、自分の考えや行動、感情の状態を、少し高い視点から客観的に捉え、より良い方向へ調整する能力を指します。1976年に、アメリカの心理学者ジョン・H・フラベルが提唱した「メタ記憶」という概念が元となり、教育や心理学の分野で発展してきました。
私たちは無意識に、見る・聞く・覚える・考えるなどの認知的な活動をしています。その認知をさらに意識し、「どうすればうまくいくか」「どこが問題なのか」と振り返るのがメタ認知です。
例えば以下のような行動もメタ認知の表れです。
・宿題の途中で「今は集中できてないな」と気づいて休憩をとる
・友達とケンカして「怒りすぎたかも」と感じて謝る
・テストの結果を見て「この勉強法は合わなかったな」と振り返る
メタ認知は、感情や行動を整え、課題の発見や改善を助けるため、学習や人間関係、仕事など様々な場面で活用されています。難しい専門用語に聞こえるかもしれませんが、日常の中で少しずつ育まれていく身近な能力なのです。
子どもの成長におけるメタ認知の重要性
現代の社会は、めまぐるしく変化しており、多様な価値観や環境の中で自分らしく生き抜いていく力が求められています。そのため、学習指導要領でも「知識や技能」だけでなく、「思考力・判断力・表現力」と並び、「学びに向かう力・人間性」が重要だと示されています。
“児童一人一人がよりよい社会や幸福な人生を切り拓ひらいていくためには,主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や,自己の感情や行動を統制する力,よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等が必要となる。これらは、自分の思考や行動を客観的に把握し認識する、いわゆる「メタ認知」に関わる力を含むものである。”
出展:小学校学習指導要領(p38)|文部科学省
この「学びに向かう力・人間性」の中で、メタ認知は欠かせない役割を担います。子どもが課題にぶつかったとき、感情的にならずに問題の本質を見極め、解決策を考える助けになってくれるのです。
メタ認知が育つことにより、以下のようなメリットがあります。
・課題解決能力が身に付く:冷静に状況を判断し、柔軟に対応できる
・感情が安定する:怒りや不安に流されず、落ち着いて行動できる
・良好な人間関係が築ける:気持ちや状況を客観的に理解し、配慮したコミュニケーションがとれる
メタ認知は、義務教育の現場でも重視される、子どもたちが未来を切り拓くために備えておきたい大切な力なのです。
メタ認知能力が高い子どもの特徴

では、実際にメタ認知能力が高い子どもには、どのような特徴が見られるのでしょうか。
ここでは、代表的な5つの特徴をご紹介します。
感情のコントロールが得意
メタ認知能力が高い子どもは、自分の感情や状況を客観的に見ることができます。
例えば、怒りや悲しみを感じたとき、深呼吸をして気持ちを落ち着けたり、「今はイライラしているから一人になろう」と考えたりできるのです。その結果、些細なことでパニックになったり、友達や大人に感情をぶつけたりすることが少なくなります。
また、感情を上手くコントロールできるため、心の安定を保ち、学校や家庭でも落ち着いて行動できます。これは、大人になってからのストレス対処能力にもつながる、大きな強みといえるでしょう。
問題の発見・解決が得意
トラブルや問題が起きたときに、「なぜこうなったのか」「本当の問題はどこにあるのか」と深く掘り下げて考えられるのも、メタ認知が高い子どもの特徴です。
例えば、勉強でつまづいた時は、どこで間違えたのかを探して、自分なりにやり方を変えてみます。友達とケンカした時も、「どう伝えればよかったのかな」と反省し、次の関わり方を考えようとします。
このように、自分自身の行動や選択をふり返り、改善策を自分で考えることができるため、同じ失敗を繰り返しにくく、成長のスピードが早いのも特徴です。また、他人のせいにせず自分の中に答えを探そうとする姿勢は、人間関係や生活面でも大きな力になるといえます。
学力・学習能力が高い
メタ認知能力は学力・学習能力にも影響を及ぼします。メタ認知能力が高い子どもは、「どうすればもっと理解できるか」「今の自分に必要な学習は何か」といった視点で、自ら学びを調整していく力に優れています。
例えば、間違えた問題をそのままにせず、自分のどこが理解できていなかったかを振り返り、解き方や考え方を確認し直す習慣が見られる傾向にあります。また、「この内容は前に習ったこととつながっている」と既習内容と関連づけて学ぶことで、知識をより深く定着させる傾向もあります。
さらに、自分の目標に合わせて学習計画を立て、状況に応じて柔軟に修正することができるため、ただ与えられた課題をこなすのではなく、目的意識をもって自発的に学習に取り組めるのが特徴です。こうした姿勢が、学力や学習意欲の高さにつながっていきます。
コミュニケーション能力が高い
メタ認知能力が高い子どもは、相手の立場に立って考えることが得意です。
例えば、「こう言うと相手が傷つくかもしれないな」と考えて別の言い方を選んだり、相手の話を最後まで聞いてから意見を伝えたりすることができます。このように、自分の言動が相手にどう受け取られるかを意識して行動できるため、人との距離感を敏感に捉え、関係を円滑に保てるのです。
また、コミュニケーション能力が高いため、友人や先生、家族とのやりとりがスムーズで、トラブルが少ない傾向にあります。相手の反応を観察しながら自分の行動を調整する力は、将来的なリーダーシップや協調性にもつながるでしょう。
予測に基づく行動が得意
未来を予測して行動できるのも、メタ認知能力が高い子どもの特徴です。
例えば、翌日の準備を前日に済ませておいたり、遊びに夢中になりながらも「このままでは遅れそうだ」と気づいて切り上げたりします。先を想像して行動できるので、トラブルを未然に防ぎ、周囲から信頼されやすい存在になります。
また、先の展開を予測しながら行動できるため、時間管理や段取りも得意です。自分の過去の経験をふり返り、「前は失敗したから、今回はこうしよう」と行動修正する柔軟さもあります。思いつきではなく、先を見据えた選択ができるのは、メタ認知能力の高さゆえといえるでしょう。
メタ認知能力の芽生えと発達
メタ認知能力は、生まれつき備わっているものではありません。年齢とともに少しずつ育まれ、発達していきます。
ここでは、3〜6歳頃の芽生え期と、小学校高学年以降の発達期に分けて、特徴や関わり方をお伝えします。
メタ認知能力の芽生え:3歳~6歳頃
3歳~6歳頃までの時期は、メタ認知の最初の種が育ち始める大切な段階です。まだ感情のままに行動してしまうことも多いですが、ところどころに「気づき」の芽が見えるようになります。
この時期に見られる行動例:
・自分の気持ちを言葉にする:「さっき泣いちゃった」「怖かった」
・自分の行動を振り返る:「間違えちゃった」「○○しなきゃよかった」
・他の子の気持ちに気づく:「お友達が悲しそうだったから謝った」
ただし、まだまだ自分の視点と相手の視点を完全に分けて考えるのは難しく、自分中心の考え方が残っています。この頃は、親が優しく声をかけてあげることで、気づきを促すのが大切です。
親ができるサポート:
・一緒に一日の出来事を振り返る
・「どんな気持ちだった?」と問いかけて感情を言葉にする練習をする
・間違えたときに「次はどうしたい?」と未来を考えさせる
まだ完璧にできなくて当然です。少しでも、自分を見つめる力が見え始めたら、大いに認めてあげましょう。
メタ認知能力の発達:小学校高学年~
小学校高学年になると、論理的に物事を考えられるようになり、メタ認知能力がさらに発達します。学習や人間関係の中で、より深く自分の行動や気持ちを振り返り、次の行動に活かそうとする姿が見えてきます。ここから先は、努力や練習次第でメタ認知能力が大きく伸びる時期でもあります。
この時期に見られる行動例:
・勉強で間違いに気づき、「どこでつまずいたか」を分析する
・友達とのトラブルで「もっとこうすればよかったな」と反省する
・自分の目標を立て、「どうやって達成するか」を考える
・テストや試合後に「次はこうしよう」と作戦を立てる
さらに、相手の立場や状況も考えられるようになり、「自分が言ったことでどう感じたかな」という視点を持つ子も増えます。
親ができるサポート:
・「なんでうまくいかなかったと思う?」と問いかけて振り返りを促す
・「次はどうすればいいかな?」と改善策を一緒に考える
・成功したときは「どうしてうまくいったと思う?」と理由を一緒に探る
・自分の行動や気持ちをノートや日記に書かせる習慣をつける
この時期になると、少しずつ親に言われる前に考える場面が増えてきます。とはいえ、全て自分でできるわけではありません。サポートしながら、考える習慣を根づかせることが大切です。
子どものメタ認知を育てる方法

メタ認知は、特別な訓練をしないと身につかない力ではありません。日々の生活や親子の関わりの中で、少しずつ育てることが可能です。
最後に、メタ認知能力を育てるために家庭でできる具体的な方法を5つご紹介します。
出来事の振り返りを行う
毎日の出来事を親子で振り返る時間を持つのは、メタ認知を育むのに効果的です。 その日の楽しかったことや、困ったこと、悔しかったことを振り返ることで、子どもは自分の気持ちや行動に気付く練習ができます。
例えば、「今日の一番楽しかったことは何だった?」「どうして楽しかったと思う?」と聞くだけでも、考えるきっかけを与えられます。困ったことが起きた場合は、「そのときどうしたの?」「ほかに方法はあったかな?」と問いかけましょう。
また、子どもが上手く話せないときは、「それはこういうことかな?」と整理してあげると、安心して話せるようになります。出来事を振り返る習慣によって、自分を客観的に見る力を育てていきましょう。
目標設定と計画づくりを手伝ってあげる
目標を設定し、それを達成するための計画を考える過程は、メタ認知を育てる上で重要です。 子どもにいきなり「自分で決めなさい」と丸投げするのではなく、親が一緒に手順を示しながら考えるとスムーズに進められますよ。
例えば、宿題や習い事の練習をする際に、 「今日は何を終わらせたい?」「どの順番でやるといいかな?」などのように、目標設定と計画づくりを手伝ってあげましょう。そして、目標を達成できたら一緒に喜びます。
また、少し大きな目標にチャレンジする場合は、ステップを小さく分けてあげるのもコツです。 「今週はここまで頑張ろう」「次はこれをやってみよう」と目標を区切ることで、見通しが立てやすくなり、達成感も得られやすくなるでしょう。
成功や努力を褒める
メタ認知を育てるためには、認めてもらう経験が欠かせません。結果だけでなく、その過程で工夫したことや、努力したことを具体的に褒めてあげましょう。
例えば、テストで良い点を取ったときは、「よく頑張ったね!」だけで終わらず、「計画的に勉強してたのがよかったね」など具体的に褒めることで、自分の行動に意識が向くようになります。上手くいかなかったときは、努力した過程を認めてあげましょう。「自分で考えて挑戦したのがすごいね」「工夫してたのに惜しかったね」という言葉は、子どものやる気を維持します。
また、親のこうした声かけが積み重なると、子どもは「どうしたら上手くいくか」と自分で考えるようになり、試行錯誤する力も伸びていきますよ。
失敗は叱らず、一緒に原因を考える
失敗や上手くいかなかった経験は、メタ認知能力を育てる大切なチャンスです。叱らず、「どうしてうまくいかなかったと思う?」「次はどうしたらいいかな?」と、一緒に振り返る時間をつくりましょう。
例えば、忘れ物をしたり、テストでミスしたりといった場面では、「何が原因だった?」と聞いてあげましょう。本人が答えやすいように、選択肢を提示するのもおすすめです。また、次の具体的な対策まで一緒に考えるとさらに効果的です。「明日は前の日にカバンを準備してみようか」「間違えやすいところはメモしておこう」といった提案をしてあげると、子どもも前向きに行動できるようになりますよ。
失敗したときほど、原因を考える習慣を身につけるチャンスだと思い、温かく寄り添いましょう。
“話を聞くこと”の大切さを教える
子どものメタ認知を育てる上で欠かせないのが、「人の話をよく聞く姿勢」を身につけることです。他人の考え方や感じ方を知ることで、自分の思考や感情を客観的に見つめ直す力が養われるため、話を聞くことの大切さを教えましょう。
例えば、親子の会話の中で、「最後まで聞いてから答えてみよう」「相手はどんな気持ちで言ってると思う?」と問いかけて、相手に意識を向けてあげます。
また、親が手本を見せるのも効果的です。子どもの話を途中で遮らずに最後まで聞いて、「そうだったんだね」「そう思ったんだね」と気持ちを受け止めてあげましょう。すると、子どもも相手の話を聞く姿勢を学んでいきますよ。
子どもが他人の考え方に触れたとき、「そういう考え方もあるんだ」と受け止められるようになると、視野が広がり、自分自身の傾向や強みにも気づきやすくなります。
まとめ
この記事では、メタ認知の意味や子どもの成長における重要性、家庭でできる育て方をご紹介しました。自分の気持ちや行動を客観的に見つめる力が身につくと、子どもは感情や行動を上手にコントロールしながら、課題を見つけ、解決に向かって前向きに取り組むことができるようになります。
ご紹介したメタ認知を育てる方法は、どれも今日からできることばかりです。無理のない範囲で取り入れながら、子どものメタ認知を育ててあげましょう。