妊娠がわかると、大きな喜びと同時に「退職した後の収入はどうなるのだろう」と不安になる方も多いのではないでしょうか。これから出産や子育てを迎えるママ・パパにとって、家計の見通しはとても大切なテーマです。
実は、妊娠を理由に会社を辞めた場合、すぐには失業保険を受け取れません。しかし、もらえる権利がなくなるわけではなく、必要な手続きを行えば、受給期間を延長し、働けるようになってから受け取ることが可能です。
この記事では、手続きの流れや、産後に受給を再開するための条件を紹介します。事前に全体像を知っておくと、見通しを持って手続きができるので、ぜひ最後までお読みください。
※失業保険は一般的な呼び方です。正式には「雇用保険の基本手当」 ですが、この記事では「失業保険」と記載します。
失業保険は「今すぐ働ける状態にある人」を対象とした制度のため、妊娠を理由に退職した場合、すぐに手当を受給できません。
とはいえ、受給の権利が消えてしまうわけではなく「受給期間延長」という手続きを行えば、出産後に働く準備が整ったタイミングで受け取れます。
失業保険を受け取るためには、ハローワークで求職の申し込みを行い「働きたい気持ちがあり、実際に働ける体調や環境が整っている状態(失業の状態)」であることが必要です。
次のような場合は、失業の状態とは認められません。
※引用:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」 https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_basicbenefit.html
さらに原則として、退職前の2年間で通算12か月以上、雇用保険に加入していることも受給条件です。
ただし、雇用保険の加入期間や体調など、個人によって状況は異なるため、必ず管轄のハローワークに相談してください。
妊娠中が受給対象外となる主な理由は、母体への負担を考えると、すぐに働くことが現実的ではないためです。失業保険は「働く準備ができているのに就職先が見つからない人」を支える制度として設けられているため、妊娠を理由に退職した場合は「すぐに働ける能力がない」と判断されます。
また、労働基準法では、産前6週間(多胎妊娠は14週間)と産後8週間は、原則として働かせてはならないと定められています。この期間は、そもそも働くことができないため、失業保険の支給対象にはなりません。
妊娠や出産を理由に退職した場合、失業保険の受給期間を延長できる特例制度「受給期間延長制度」を利用できます。あらかじめ手続きをしておけば、体調が回復し、働ける状態になったタイミングで受給可能です。
ここでは受給期間延長制度の詳細を紹介します。
受給期間延長制度を利用すると、失業保険を受け取れる期間を最大で離職日から4年以内まで延ばせます。本来の受給期間である1年間に加え、最大で3年間の延長が認められます。
例えば3年間育児に専念した場合でも、延長申請をしていれば、その後に手当を受け取りながら職探しができます。
延長申請の際は、必要書類を提出して審査を受け、認められると「受給期間延長通知書」が交付されます。この通知書は産後に失業保険の受給を再開するときに必要な書類のため、紛失しないように安全な場所で保管しておきましょう。
延長制度を利用できる対象者は、次の通りです。
① 病気やけがで働くことができない(健康保険の傷病手当、労災保険の休業補償を受給中の場合を含む)
② 妊娠・出産・育児(3歳未満に限る)などにより働くことができない(不妊治療を含む)
③ 親族の介護のため働くことができない
④ 60歳以上の定年等により離職して、しばらくの間休養する(船員であった方は年齢要件が異なります)
※引用:厚生労働省「離職されたみなさまへ」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000951119.pdf
また、病気やケガ、親族の介護を理由に退職した人も対象になる可能性があります。いずれも「働く意思はあるが、やむを得ない事情ですぐに就職活動ができない」という状態であることが前提です。
自分が対象になるか判断に迷う場合は、離職票を受け取った段階で早めに管轄のハローワークへ相談すると安心です。退職理由に関わらず、条件を満たせば延長手続きはできますので、まずはハローワークに相談してみてください。

受給期間の延長手続きは、お住まいの地域を管轄するハローワークで行います。ここからは、具体的な延長手続きの方法を紹介します。
延長手続きの申請期間は「引き続き30日以上職業に就くことができない日」の翌日以降、できるだけ早めに行うことが原則です。
<例>
4月1日に離職し、4月2日から働けない状態の場合、5月1日で30日が経過
→ 5月2日以降、早めに申請
以前は離職翌日から30日後から1か月の間に申請が必要でした。2017年4月に制度が変わり、現在は受給期間の最後の日までは延長手続きの申請が可能で、最長で離職日の翌日から4年以内まで延長できるようになっています。
ただし、申請のタイミングには注意が必要です。手続きが遅れると、手当をもらい終わる前に延長後の受給期間が終了してしまい、結果として全額を受給できない可能性があります。
離職票などの書類が手元にそろった時点で、早めに手続きを検討すると安心です。
延長申請には、指定された書類を準備する必要があります。書類に不足や不備があると再提出になることもあるため、事前に確認しておくと手続きがスムーズです。
▶必要な書類の例
提出後、審査を経て認められると「受給期間延長通知書」が交付されます。後日、働く準備が整って受給を再開する際に必要な書類ですので、わかりやすい場所で大切に保管してください。
つわりが強い場合や医師から安静を指示されている場合など、窓口へ行くことが難しい場合は、郵送での申請が可能です。郵送の場合は、簡易書留など記録が残る方法で送付すると安心です。発送控えも保管しておきましょう。
また、配偶者などの代理人が窓口で申請する方法も認められています。代理申請の場合は、本人が作成した委任状と、代理人の本人確認書類が必要になるケースが一般的です。事前に必要書類を確認して用意しておきましょう。
産後に失業保険を受け取るには、ハローワークで受給延長の解除手続きが必要です。
受給延長を解除できる時期は、原則として産後8週間が経過してからです。「産後6週間を過ぎ、医師が就労を認めた場合」といった例外もありますが、体調が十分に回復していることが前提です。就職活動に専念できる状態になってから手続きを進めましょう。
解除手続きには、延長手続きの時に受け取った受給期間延長通知書や、出産日が確認できる母子健康手帳などの書類が求められることが一般的です。必要な持ち物は地域によって異なる場合があるため、事前に管轄のハローワークへ確認しておくと安心です。
失業保険を受け取るには、原則として4週間に1回の失業認定日までに、最低2回の「求職活動実績」が必要です。
求職活動実績は、次のようなものが認定されることが一般的です。
求人への応募や面接だけでなく、相談やセミナーも認定の対象になります。
インターネットで求人を見るだけでは実績として認められないため、ハローワークの窓口で担当者に相談したり、セミナーに参加したりするのが確実です。
子どもの預け先が決まっていない場合は「いつでも働ける状態」とは判断されず、受給延長の解除が難しいケースが多いです。
ただ、認可保育園の入園が未定でも問題ありません。認可外保育施設の利用や一時保育の活用、親族に預ける予定があるなど、具体的な見通しがあれば条件を満たせます。
ハローワークの窓口では、面接時や就職後に「子どもをどう預けるのか」の確認があります。スムーズに手続きを進めるためにも、あらかじめ説明できるよう整理しておきましょう。

妊娠を理由に退職した場合は、失業保険だけでなく、ほかにも確認しておきたいお金の手続きがあります。収入が減る時期に、出産や育児の負担を少しでも軽くするために、しっかり確認しておきましょう。
出産にかかる費用をカバーするために、出産育児一時金の申請を行いましょう。
健康保険や国民健康保険に加入していれば、出産する医療機関にもよりますが、子ども1人につき50万円ほどが支給されます。産院に直接支払われる「直接支払制度」を利用すれば、退院時に窓口で払う金額を大きく抑えられます。
退職後に配偶者の扶養に入った場合でも、家族が加入する健康保険組合から支給されます。詳細は、配偶者が加入する健康保険組合に確認してください。
退職後に収入がなくなる場合は、配偶者の扶養に入る手続きを早めに行いましょう。扶養に入ると、自分で国民健康保険料や国民年金保険料を支払う必要がなくなり、毎月の支出を抑えられます。失業保険の受給期間を延長している間は手当を受け取っていないため、原則として収入がない状態とみなされ、扶養に入れます。
ただし、産後に失業保険の受給を再開した際、もらえる手当の日額によって扶養から外れる必要があります。
▶失業保険の受給を再開した場合の扶養加入目安
扶養の判定は、年間収入の見込み額をもとに判断されます。詳細は日本年金機構や、配偶者が加入する健康保険組合に問い合わせてみてください。
妊娠をきっかけに退職した場合、失業保険を受け取るには「受給期間延長」の制度が便利です。延長手続きをすると、最大4年まで受給期間を延ばせます。産後に体調が回復し、子どもの預け先を確保して働ける状態になれば、延長を解除して手当を受け取れます。また、出産育児一時金や扶養の手続きも、あわせて確認しておきましょう。
離職票が届いたら、早めに管轄のハローワークへ相談すると安心です。制度を正しく理解し、使える支援はしっかり活用しながら、落ち着いて出産と子育ての準備を進めていきましょう。