いじめの原因は?子どもを守るために大人が知っておくべきこと

全国の小中学校や高校で、2023年度に認知されたいじめの件数は過去最多の73万2568件。
心や体、財産に大きな被害が出た「重大事態」も1306件と、初めて1千件を超えました。
つまりいじめは、遠い話ではなく、すぐそばにある身近な問題ということです。
では、そんないじめに悩む子どもを守るために、私たち大人ができることは何でしょうか?
の記事では、いじめが起きる背景や原因を見つめ直しながら、早めに気づいて対応するためのヒントをお伝えします。
保護者として何ができるのか具体的な対応方法も紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
参考:https://www.asahi.com/sp/articles/ASSB01TY4SB0UTIL023M.html
いじめとは?
「いじめられた」「いじめはダメ」——そんな言葉を聞くことは少なくありません。
でも、そもそも「いじめ」とは、どういうことを指すのでしょうか?
ここでは、文部科学省が示している「いじめの定義」について、わかりやすく紹介します。
文部科学省による「いじめ」の定義
ひとことで「いじめ」といっても、その意味や範囲は時代によって変わっています。現在文部科学省では、子ども自身が“つらい”と感じているかどうかを大切にしながら、次のように定義しています。
「いじめ」とは、 「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、 ③相手が深刻な苦痛を感じているもの。 なお、起こった場所は学校の内外を問わない。 」とする。なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。 |
平成6年度までは、「一方的であること」「学校がその事実を確認しているもの」などが要件とされていましたが、現在はそれらの条件にとらわれず、子どもがどう感じたかに重点を置いて判断するのが基本です。
また、いじめに当たるかどうかは表面的・形式的に考えるのではなく、いじめられた側の立場になって判断することを大切にしています。
つまり、SNSでの誹謗中傷や、表面上は“いじり”に見えるようなことでも、本人がつらいと感じていれば、それは「いじめ」に該当するということです。
いじめの主な原因と背景

いじめは、ただ「意地悪をした・された」というだけの単純な話ではありません。
いじめる側が心の中に抱えている問題や、クラスという集団ならではの空気や雰囲気が、いじめを生み出すこともあります。
そうした背景を知ることで、いじめの本当の姿が分かり、解決策が見えてくるでしょう。
いじめる側の心の問題
確かにいじめは許されない行為ですが、いじめをしてしまう子どもが「根っから悪い子」とは限りません。
むしろ、心の中に葛藤や不安を抱えていたり自分を上手く表現できずにいることもあります。
感じているストレスや不満を解消する手段が見つからないまま、「誰かを傷つけることで安心しようとしてしまう」ような行動に走ってしまうのです。
だからこそ、大人がすべきなのは、ただ叱ることだけではありません。
その子の心の中にある「助けて」のサインに気づき、その背景にある気持ちに寄り添ってあげることが大切です。
いじめられる側の特性
いじめられる子どもに原因があるわけではありませんが、周囲との違いがいじめのきっかけになることがあります。
例えば、自己主張が強いことで「目立ちすぎる」と受け取られたり、逆に控えめすぎて「何を考えているかわからない」と誤解されたり。どちらのタイプも、集団の中で浮いてしまうことがあるのです。
また、見た目の個性やユニークな趣味、成績の良し悪しなど、ほんの些細な違いが「異質」とされ、いじめの対象になるケースもあります。
でも、それはその子の「悪さ」ではなく、まわりの理解や受け入れる力が足りていないだけ。
どんな子どもも安心していられるように、大人が「ちがいを認め合う空気」を育てていくようにしましょう。
集団心理と傍観者の影響
いじめは、「いじめる側」と「いじめられる側」の単純な2層構造の問題ではありません。
クラスやグループの中にある見えないルールや空気が、いじめを助長することがあります。
「自分もターゲットにされたくない」「関わるのが怖い」といった思いから、はやし立てる”観衆”や見て見ぬふりをする“傍観者”の存在も、結果的にいじめを深刻化させてしまいます。
つまりいじめは、「いじめる側」「いじめられる側」「観衆」「傍観者」の4層構造ということです。
いじめが起きているときに、「関係ない」と感じてしまう子どもが多いのは、集団の中での立場を守りたいという心理が働くから。
だからこそ、周囲の子どもたちに「無関心も加害の一部になりうる」ことを伝え、助けを求めることや声をあげることの大切さを伝えていく必要があります。
いじめが起こりやすい環境
いじめは、子どもたちの性格や行動だけで起こるものではありません。
家庭や学校、そして社会全体の環境が深く関係しています。
ここでは、いじめが生まれやすい環境について考えてみましょう。
家庭環境
家庭は、子どもにとって最も身近で、心の土台を育てる場所です。
親が日常的に怒りっぽかったり、誰かを見下すような言い方をしていたりすると、それが「普通のやりとり」として子どもに刷り込まれてしまい、学校でも同じような態度をとってしまうことがあります。
また、他者を攻撃することで自分を保とうとする場合もあります。
いじめという行動の裏側には、うまく言葉にできない不安や、「わかってほしい」という気持ちが隠れていることもあるのです。
家庭の中で「安心して甘えられる」「自分は大切にされている」と感じられること。
それが、子どもが他者との関係を築くうえでの、土台になっていきます。
学校環境
学校という空間そのものが、いじめの温床になっているケースもあります。
教職員共済生活協同組合「いじめを発生させない環境づくり」)で、いじめについてNPO法人ストップいじめ!ナビ代表である荻上氏は以下のように指摘しています。
いじめを起きにくくするためには、児童・生徒がストレスなく過ごせる教室・授業づくりが必要となるわけです。もし、ストレッサー(不機嫌因子)の多い教室であれば、いじめは増大してしまう。 |
例えば、先生が細かなルールにこだわりすぎていたり、失敗を厳しく叱責するような空気になっていたりすると、子どもは安心して自分らしく過ごせません。
そのようなストレスのはけ口が「弱そうに見える子」に向けられ、いじめへと発展することがあります。
また、先生の目が届かない時間帯(昼休みや放課後など)や場所(廊下・トイレ・部室など)では、いじめが起きやすい傾向があります。
子どもたちは「見つからなければやってもいい」と考えてしまうのです。
さらに、多様性を受け入れにくい空気や、“みんなと同じ”を求める強い同調圧力がある教室では、違いや個性が抑えつけられ、いじめの標的が生まれやすくなります。
社会全体の変化とストレス
現代の社会は、子どもたちにとってもストレスの多い時代です。
コロナ禍による生活の変化や、SNSでのやりとり、将来への不安など、子どもたちは日々さまざまなストレスにさらされています。
さらに、「勝ち組・負け組」といった価値観が広がるなかで、子ども同士のあいだにも上下関係のようなものが生まれやすくなっています。
「自分より下の子を見つけて安心したい」といった気持ちが、見下したり仲間外れにしたりする行動につながってしまうのです。
また、大人の社会で飛び交う暴言や差別的な言葉が、テレビやインターネットを通して子どもたちの耳に入る場面も少なくありません。
子どもはまだ、「大人の言うことは正しい」と思う時期なので、そうした言動をまねしてしまうこともあります。
このように、社会全体が抱える構造的な問題も、子どもの行動に影響を与えているのです。
いじめのサインを見逃さないために

いじめは、当事者が自分から「いじめられている」と言い出すことが難しい問題です。
そのため、大人がいち早く子どもの変化に気づき、適切に対応することが重要です。
ここでは、子どもが発しているかもしれないサインについて見ていきます。
子どもの変化に気づく:表情、行動、言動の変化
日常の中で子どもをよく観察していると、いじめによる心のSOSが“変化”という形で現れることがあります。
その変化は必ずしも大きなものではなく、些細な違和感にすぎないかもしれません。
例えば、
- 表情が乏しくなった
- 口数が急に減った
- 目を合わせなくなった
- 家で突然怒りっぽくなる
- 学校や友だちの話を避けるようになった
こうした変化は、子どもなりに何かを抱えているサインである可能性があります。
特に、明るかった子が無口になったり、行動が極端に慎重になったりするような“ギャップ”には注意が必要です。
SOSのサイン:体調不良、持ち物の変化、不自然な行動
いじめは心だけでなく、体や日常生活にも影響が現れることがあります。
以下のような変化が見られたら、子どもが何かつらい気持ちを抱えているサインかもしれません。
- 頻繁に頭痛や腹痛を訴える(特に登校前)
- 朝になると「学校に行きたくない」と言うようになる
- 持ち物が壊れていたり、なくなっていたりする
- お金の使い方が急に変わった(親のお金が減る、急にお小遣いを欲しがる など)
- 不自然にスマートフォンやSNSを隠すようになる
これらは子どもが言葉にできない苦しさを何とか表に出そうとしているサインです。
また、本人が「いじめられている」と言えなかったり、「自分が悪い」と思い込んだりすることもよくあります。
いじめ防止のために大人ができること
いじめは、子ども同士の問題として片づけられるものではありません。
大人のかかわり方次第で、いじめの芽を摘むことも、深刻化を防ぐことも可能です。
ここでは、子どもを支える立場として、大人ができる具体的なアクションを紹介します・
子どもの話を聞く
いじめを防ぐ第一歩は、子どもが安心して話せる環境をつくることです。
子どもが不安や不満を感じたとき、それを誰にも言えずに抱え込んでしまうと、いじめの加害者へとなってしまうことがあります。
例えば、次のような姿勢が大切です。
- 子どもの話を途中でさえぎらず、最後まで聞く
- 評価や否定をせず、「そう感じたんだね」と共感を示す
- 話したことに対して怒らない、責めない
このように、子どもの気持ちに寄り添いながら耳を傾けることで「自分を受け止めてもらえている」と感じることができます。
反対に「どうせ話しても無駄だ」と感じてしまうような態度では、気持ちを上手く出せずに心にたまったストレスを他の子どもへ攻撃することで解消しようとすることもあります。
だからこそ、子どもの声に耳を傾けることがいじめのない環境づくりにつながっていくのです。
学校との連携・協力
子どもから「いじめられた」と先生に伝えるのはなかなかハードルが高いものです。
そのため、子どもから気になる言動が見られた場合は、学校に連絡し、担任やスクールカウンセラーに相談しましょう。
現在は学校ごとに「いじめ基本方針」の作成が義務付けられており、いじめが認められれば組織で対応しなければならないとルールが定められています。
そのため、学校は子どもが安心して過ごせるように配慮し、必要に応じて休みを取らせたり、保健室登校にしてくれたり、カウンセリングなどのサポートをしてくれたりします。
専門機関への相談
いじめの問題は複雑で、家庭や学校だけでは対応が難しいケースも少なくありません。
必要に応じて、第三者の力を借りるようにしましょう。
以下のような専門機関が相談窓口として活用できます。
- いじめ防止対策推進法に基づく教育委員会の相談窓口
- 児童相談所、子ども家庭支援センター
- 民間の電話相談(チャイルドライン、24時間子どもSOSダイヤルなど)
- スクールカウンセラーや臨床心理士
まとめ
いじめは子どもだけの問題ではなく、心や周りの環境も関わっています。
大人が子どもの気持ちに寄り添い、ちょっとした変化に気づくことが大切です。
家庭だけで解決しようとせず、学校や専門機関など、いろいろな相談先を頼りながらみんなで支えていきましょう。
子どもが安心できる環境を作ることが、いじめをなくす一歩になります。