子どもが保育園に通っている方から、「入学後に学力で差がついてしまうかもしれない」と不安の声を耳にすることがあります。「保育園よりも幼稚園の方が教育面に力を入れている」というイメージから、小学校入学を見据えて幼稚園への入園を考えるご家庭もあるようです。
しかし、実際には保育園か幼稚園かという違いによって、学力に大きな差が生まれる可能性は高くありません。保育時間の違いなどから園での過ごし方には差がありますが、現在は保育園・幼稚園に共通して「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」という指針があり、施設の違いによって教育・保育内容に差が生まれにくくなっています。
この記事では、保育園と幼稚園の違いや、入学後の学習面におけるメリット・デメリットを整理し、幼児期に大切にしたいポイントも紹介します。ぜひ最後までお読みいただき、子どもの良さや得意なことを伸ばすためのヒントになれば幸いです。
まずは、保育園と幼稚園の基本情報を確認しておきましょう。
| 保育園 | 幼稚園 | |
| 設置目的 | 保護者の代わりに子どもを預かり生活を支える | 遊びを通じた教育で発達を促す |
| 利用者 | 就労などで保育が必要な家庭の子ども | 園が入園を許可した家庭の子ども |
| 子どもの年齢 | 0歳児から就学前 | 3歳児から就学前 |
| 管轄する省庁 | こども家庭庁 | 文部科学省 |
ここからは、保育園と幼稚園の学習面や教育方針の違いを、具体的に紹介します。
保育園では、国が定める「保育所保育指針」に基づいて保育を行います。教育に関わる内容も記載されていますが、保護者の代わりに長時間子どもを預かる施設ということもあり、子ども達が健康で心地よく生活を送れるかという点も重要視されています。
年齢や月齢に応じた生活リズムで過ごし、食事や着替えなどの習慣を通じて自立心を養い、友達との交流から社会性やコミュニケーション力を学びます。また、遊びを通して、物事に粘り強く取り組む力や、新しいことへの好奇心を育てられるでしょう。
一見すると遊び中心の集団生活ですが、その中で育まれる意欲やコミュニケーション力などが、入学後に本格的な学習に進めるための土台となります。
幼稚園は、文部科学省が定める「幼稚園教育要領」に基づいて教育を行う施設です。小学校以降の学習や生活につながるよう、計画的に教育活動を行います。教育活動と言っても、読み書きや計算だけではなく、遊びを通して興味を広げ、活動に取り組んで気づきを得ることが重要視されています。
また、音楽や製作などの活動をカリキュラムとして取り入れるなど、学習活動に力を入れる園も多いです。クラスなどの集団で行動する経験や、話を聞いて行動する力を身につける場としての役割も担っています。
入学後の学びで必要になる、学びを主体的に楽しもうとする意欲や態度を、活動や遊びを通して学べます。
| 保育園 | 幼稚園 | |
| 主な時間帯 | 朝から夕方までの8~11時間程度 | 日中の4~5時間程度 |
| 形態 | 自由遊びが中心 | 先生が決めた活動が中心 |
| 活動の目的 | 健やかな心身の成長と自立 | 学校生活への適応 |
どちらも遊びを通して学ぶことを大切にしている点は共通していますが、時間帯や活動の形態、目的などが異なります。
また、園によっても方針が大きく異なり、カリキュラムに力を入れた保育園もあれば、自由遊びが中心の幼稚園もあります。事前に見学などで情報収集をすることが大切です。
近年は認定こども園も増えており、保育園のような長時間の預かりが可能で、幼稚園のように教育面が充実している、両方の良さを併せ持つ施設として注目されています。

保育園と幼稚園のどちらに通っていたかによって、入学直後の様子に違いが見られることがあります。ここでは、保育園を卒園した子どもと、幼稚園を卒園した子どもの、それぞれに見られやすい傾向を整理します。
| メリット | デメリット |
| 生活面が自立している体力がある子どもが多い | 長時間座って授業を受けることに戸惑うことがある卒園までお昼寝をしていた場合、夕方に眠くなってしまう子どももいる |
保育園を卒園した子どもは、朝から夕方までの長時間を園で過ごすため、日常的に着替えや持ち物の管理などを経験します。そのため、生活習慣が自立している子どもが多いです。小学校での準備時間や給食の配膳、休み時間の過ごし方など、自分で考えて支度できる点は強みといえます。
また、集団で長い時間を過ごし、体を動かす活動も多いため、体力がある子どもも多いです。
一方で、自由に遊ぶ時間が多かった分、座って授業を受けることや、学校のルールに慣れるまで少し時間がかかることがあります。
保育園で卒園までお昼寝をしていた子ども達のなかには、お昼寝がないことで夕方に眠くなってしまうこともあります。
| メリット | デメリット |
| 授業への適応がスムーズ指示を聞いて行動することに慣れている | 長時間の学校生活で疲れやすい身の回りの支度に苦労する場合も |
幼稚園を卒園した子どもは、先生の話を聞いて、クラスの友達と一斉に活動する経験を多く積んでいるため、学校の授業への適応がスムーズであることが多いです。
机に向かって取り組むことや、全体への指示を聞いて行動することに慣れているため、学習のスタートが安定しやすいともいえます。
一方、保育園に比べて園で過ごす時間が短かった子どもは、長時間の学校生活に疲れやすい場合があります。また、身支度などを大人に任せることが多かった場合、荷物の整理や準備に苦労することもあります。
入学直後は先述のような違いがある可能性がありますが、数ヶ月するとほとんど気にならなくなります。ひらがなや数字などは基礎から丁寧に教えられるため、入学前の知識量が成績を大きく左右することはありません。
また、自治体によっては幼稚園・保育園・小学校が連携し、入学前の子ども達の姿を把握したうえで、無理なく学校生活に馴染めるようなプログラムを組むこともあります。入学前にどの園に通っていたかによって、授業についていけなくなるということはないので安心してくださいね。
就学を迎えるうえで大切なことは、学校生活を安心して楽しく過ごせることです。夏休みを迎える頃には、それぞれのペースで小学生として成長していくでしょう。
入学前には、ひらがなの読み書きや計算スキル以上に、学ぶための土台を整えることが大切です。ここからは、幼児期に身につけたい、学習につながる力を紹介します。
近年、教育の分野で注目されているのが「非認知能力」です。非認知能力はテストの点数やIQのように数値では測れない力で、最後までやり抜く力や、自分の気持ちをコントロールする力などを指します。
友達と協力して遊んだり、失敗してもあきらめずに挑戦したりすることで、非認知能力が育ちます。好きなことを見つけ、友達と一緒に集中して取り組む経験が大切です。
【非認知能力の例】
「入学前にひらがなが書けるほうが良いのではないか」などと考え、先取り学習をするご家庭も多いですが、先取り学習にはメリットとデメリットがあります。
メリットは、文字や数字に早く慣れておくことで、授業を安心してスタートできることです。初めての環境に慣れることで精一杯のため、授業の内容を「知っている」「できる」と思うことで、安心や自信につながることもあります。
一方、すでに内容を知っているために授業を退屈に感じてしまい、学ぶこと自体への興味が薄れてしまう子どももいます。
先取り学習をする場合は、子どもの興味関心に応じて無理のない範囲で進めることが大切です。知識を増やすことを目的にせず、「知らなかったことが分かると嬉しい」と感じられる関わり方を心がけましょう。

通う園の種類以上に、子どもの個性に合った環境を整えることが大切です。園は成長を支える場所ですが、園以外での過ごし方や多くの人と関わる経験を通して、さらに成長できます。
ここからは、子どもの力をさらに伸ばすためのヒントを紹介します。
家庭でじっくり遊ぶことも大切ですが、得意なことを伸ばしたい、熱中できることを見つけたい場合には、習い事を検討することも一つの方法です。
習い事を選ぶ際は子どもの興味関心を優先しましょう。子どもは、興味を持ったことに対して集中力と吸収力を発揮します。「できた」「もっとやりたい」という経験が自己肯定感を高め、将来学習に取り組むための土台になるでしょう。
ただし、予定を詰め込みすぎると、自由に遊ぶ時間が減ってしまうこともあります。無理のないペースで、子どもが前向きに取り組める活動を選ぶことが大切です。
園生活や習い事では、人との関わりを通じてコミュニケーション力が身につきます。自分の気持ちを伝え、相手の思いを受け止める力は、学習や人間関係の土台になります。
友達とぶつかったり、仲直りしたりする経験を通して、子どもは自分なりに問題の解決方法を学びます。先生とのやり取りも、言葉の理解力や表現力を育てる機会です。
保育園と幼稚園のどちらを選んでも、小学校以降の学力に大きな差が出ることはありません。大切なのは施設の種類ではなく、子どもが学ぶことを楽しめる力を身につけることです。
保育所保育指針・幼稚園教育要領のどちらも、教育面の内容は大きく変わりありません。入学直後に見られる、通っていた園の特色による違いも、数ヶ月の学校生活の中で小さくなっていきます。
幼児期に育った非認知能力は、学びを長く支える力になります。勉強ができることだけでなく、好奇心や挑戦する姿勢も認めてあげることが大切です。周囲の情報に振り回されすぎず、子どもの成長を信じて見守りましょう。