ダブルバインドとは?人間関係で悩まないための原因と対処法

「ダブルバインド」という言葉をご存じでしょうか。
直訳すると「二重拘束」で、矛盾した2つのメッセージを同時に伝えることで、相手を混乱させてしまう状況のことを指します。
子育ての場面でもよく見られ、例えば「自分で決めていいよ」と言いながら、子どもが選んだら「それはダメ」と否定してしまうようなケースです。
こうした矛盾は、子どもに不安や迷いを生じさせ、自己肯定感の低下につながることもあります。
本記事では、子育て中に起こりやすいダブルバインドの具体例や子どもへの影響、保護者が意識しておきたい対処法を解説します。
ダブルバインドの基本
子どもを惑わせてしまう「ダブルバインド」は、日常のちょっとしたやりとりの中でも起こりえます。
子育て中のダブルバインドを避けるためには、まずはその基本的な意味や起きてしまう理由を知ることが大切です。
ここでは、ダブルバインドの定義やなぜ起こるのか、矛盾したメッセージが子どもに与える影響について解説します。
ダブルバインドの定義
ダブルバインドとは、矛盾する二つのメッセージや要求を同時に受け取り、どちらに従っても「間違い」と捉えてしまう状況をいいます。
言葉だけでなく、表情や態度などの非言語的なサインによっても起こる複雑な心理的現象です。
子育てでよくあるのは、保護者が「どこに行きたい?好きなところでいいよ」と言いながら、子どもが選んだことに「そこはダメ」と否定してしまうケース。
あるいは「大丈夫」と笑顔で伝えているものの、声の調子や表情からは不満がにじみ出ている場合なども、ダブルバインドにあたります。
こうした状況に置かれると、子どもは「どうすればいいの?」と戸惑ってしまい、行動しづらくなったり、発言できなくなったりしてしまいます。
ダブルバインドには、このような事象が繰り返されることで、自己肯定感や安心感に影響を与えてしまう特徴があります。
なぜダブルバインドが起こるのか
ダブルバインドは、意図的に使うものだけではなく、多くは無意識のうちに生まれます。
例えば保護者が「子どもの自主性を尊重したい」と思いつつも「間違ってほしくない」という気持ちを同時に抱いていると、言葉と態度が矛盾してしまいます。
また、忙しさや疲れから気持ちに余裕がなくなると、つい「早くやりなさい」と急かした後に「自分のペースでいい」と言ってしまうなど、ちぐはぐなメッセージを伝えてしまうこともあるでしょう。
子どもは矛盾したメッセージに直面したとき「どちらも守らなければ」と感じ、混乱してしまいます。
つまりダブルバインドは、気持ちの揺れの中で自然に起きてしまう現象といえます。
矛盾したメッセージが与える影響
ダブルバインドが続くと、子どもは混乱するだけでなく、心や行動にさまざまな悪影響を受けます。
ここではいくつかの例を紹介します。
・間違ったコミュニケーション方法を学んでしまう
まず大きな問題として、間違ったコミュニケーション方法を学んでしまうことが挙げられます。
後述していますが、ダブルバインドの一例として「嘘による脅し」というケースがあります。これは「勉強しないなら一生ごはん抜きだからね!」といった、事実と異なる嘘(脅し)によって相手をコントロールしようとするケースです。親からこのような矛盾した言葉を受けて育った子どもは、「相手をコントロールするには脅せばいい」と覚えてしまい、弟や妹、友だちに対して「おもちゃを貸してくれなきゃ遊んであげない」といった態度をとるようになることがあります。
・親を信用できなくなる
矛盾を繰り返し経験すると、親を信用できなくなることもあります。
信頼関係が揺らぐと、悪いケースでは子どもが取引のような言い方で親を試そうとすることもあります。
・自己肯定感の低下
「どうせ否定される」と思うことで、自己主張ができなくなり、自分の意見を言わなくなるケースも少なくありません。
自分の選択が尊重されないことが続くと、「自分の意思よりも親の望みに合わせた方がいい」と考え、やがて自分で考えること自体を諦めてしまうのです。
その結果として、自己肯定感が低下することもあります。
このように、ダブルバインドは子どもの成長に深い影響を与えます。
だからこそ、矛盾したメッセージをできるだけ減らし、安心して自分の気持ちを表現できる環境を整えてあげるようにしましょう。
日常生活におけるダブルバインドの具体例

ダブルバインドは、日常の中でもよく起こります。
ちょっとした矛盾でも、子どもが混乱してしまうことがあるため、注意が必要です。
ここでは代表的な3つのケースを見ていきましょう。
言葉と態度が矛盾してしまう
「怒ってないよ」と言いながら、不機嫌そうな顔をしている。「大丈夫」と口で言いながら、ため息やきつい口調が混じる。
このように言葉と態度が一致しないと、子どもはどちらを信じていいか分からなくなり、安心感を失ってしまいます。
このような状況が続くと、子どもが自分の意見を言えなくなる可能性があります。
人によって言っていることが異なる
お母さんからは「先に宿題をやりなさい」と言われたのに、お父さんからは「あとでやればいいから遊んでおいで」と言われる。
学校で先生によって指示が違う。
こういったケースもダブルバインド一種です。
相反するメッセージを同時に受け取った子どもは、どちらに従えばいいのか迷い、行動が止まってしまうことがあります。
嘘による脅し
「早く寝ないとオバケが来るよ」「言うことを聞かないと置いていくよ」など、子どもを従わせるために大人がつい口にしてしまう脅し文句も、ダブルバインドの一種です。
子どもは「本当なのかな?」と不安になり、大人の言葉に対する信頼を失うきっかけになることもあります。
ダブルバインドがもたらす影響
ダブルバインドは、子どもの心に大きなストレスを与え、成長にさまざまな悪影響を及ぼします。
ここでは代表的な3つの影響を見ていきましょう。
コミュニケーション能力の低下
ダブルバインドが続くと、子どもは「自分の言葉は受け入れてもらえない」と感じるようになります。
「意見を聞かせて」と言われたからありのままを答えたのに、「それは違うでしょ」と否定される経験が重なると、子どもは次第に口を閉ざすようになるのです。
その結果、相手の気持ちを理解する力や、自分の気持ちを表現する力が育ちにくくなります。
相手の感情を読み取れないまま会話を進めたり、自分の思いを伝えられなかったりすると、友だちや先生との関係もうまくいかなくなることがあります。
言葉や態度に注意して、「話をちゃんと聞いてもらえる」環境を用意してあげるだけで、自然とコミュニケーション力は育まれていきます。
混乱と不安(それに伴う行動の麻痺)
例えば「好きな科目を選んでいい」と言われたのに、「でも数学を選ばないと将来困るよ」と指摘されたら、自由に選んでよいのか、指示に従うべきか迷ってしまいますよね。
こうした状況が繰り返されると、不安になり、決断の場面で考えが止まってしまうことがあります。
「挑戦しても無駄」と感じ、積極性や自発性が弱まってしまうのです。
信頼関係の崩壊
ダブルバインドが続くことによって、信頼関係が崩壊してしまう可能性もあります。
例えば「片づけをしたらテレビを見てもいいよ」と言われて頑張って片づけたのに、「やっぱり今日はダメ」と約束を反故にされたら、子どもだって信用できなくなりますよね。
一度や二度なら受け流せても、繰り返されれば「本当の気持ちを隠しているのでは」「どうせ守られない」と疑うようになり、素直に相談したり助けを求めたりすることが難しくなります。
やがて親子の間に壁ができ、関係そのものに距離が生まれてしまうのです。
ダブルバインドを使わないためのポイント

ダブルバインドを避けるには、親が意識して言葉や態度を揃えることが大切です。
ここでは、ダブルバインドを避けるために意識したいポイントを紹介します。
伝える内容をシンプルにする
言葉を選ぶときは、できるだけシンプルにまとめることが大切です。
例えば「宿題をしてから遊んでね」と言うだけで十分なのに、「遊んでもいいけど、宿題が終わっていないと困るからできれば先にやってほしいな」と回りくどく伝えると、子どもは「結局どっち?」と混乱してしまいます。
子どもが行動しやすくなるよう、シンプルで分かりやすい言い方を心がけましょう。
相手の考えや反応を尊重する
子どもが意見を言ったとき、まずは「そう思ったんだね」と子どもの考えを受け止めることが大切です。
たとえ大人の望む答えでなくても、頭ごなしに否定してしまうと「どうせ言ってもムダ」と思わせてしまいます。
先に共感を示し、そのうえで理由を伝えると、子どもも納得しやすくなります。
ルールを決めて、守る
「夕飯の前にお菓子は食べない」「ゲームは1日30分」など、家庭の中でルールを決めることもおすすめです。
家庭内で一度ルールを決めたら、大人も一貫して守ることが重要です。
昨日は許されたのに今日はダメ、というように基準が揺れると、子どもは「何を信じればいいのか分からない」と感じてしまいます。
ルールを守ることで、子どもに安心感と信頼感が育まれます。
まとめ
ダブルバインドは、矛盾したメッセージによって混乱し、不安や自信の低下を招く心理的な現象です。
日常のちょっとした言葉や態度がきっかけとなり、知らないうちに影響を与えてしまうこともあります。
大切なのは、一貫したコミュニケーションを心がけることです。
不安な方は、この記事にある「ダブルバインドを使わないためのポイント」を是非意識してみてください。
「今の言葉は矛盾していなかったかな?」と振り返る習慣を持つだけで、親子の信頼関係は安定していき、温かい絆を築いていけますよ。