「保育園に預けるときに泣いてしまう」「親の姿が見えないだけで、パニックのように泣き叫ぶ」、お子さんに関するそんな悩みを耳にすることがあります。
このような反応は「母子分離不安」と呼ばれるもので、多くの子どもが経験する成長過程の一つです。とはいえ、毎日の登園渋りや後追いが続くと、親にとってもストレスになります。家事が進まない、周囲の目が気になるなど、精神的に疲れてしまうのも無理はありません。
この記事では、母子分離不安の基礎知識や年齢ごとの特徴、家庭で実践できる具体的な対処法を紹介します。ぜひ最後までお読みください。
まずは、母子分離不安とはどのようなものかを整理します。起こりやすい時期、分離不安障害との違いも、あわせて見ていきましょう。
母子分離不安とは、子どもが親から離れることに対して、強い不安や恐怖を感じる状態を指します。子どもにとって、親は「一番安心できる存在」で、安心できる人が見えなくなることで「もう会えないかもしれない」と感じ、不安が大きくなることで起こります。
主な症状は、次のようなものがあります。
【行動面】
【身体面】
次のような症状を訴えることがあります。ただし、親と一緒にいると治ることが多いのが特徴です。
身体的な不調は「仮病ではないか」と感じるかもしれませんが、自律神経の乱れによって本当に痛みを感じている場合が多いです。自律神経は、心臓の動きや呼吸、体温などを調整する働きのことですが、バランスが崩れると実際に体調不良に繋がることがあります。
母子分離不安は、子どもと親の愛着がしっかり育っているからこそ起こるものです。多くは成長とともに落ち着いていきますが、不安の強さや継続する期間には個人差があります。
※愛着:「この人といると安心できる」という心のつながりのこと
母子分離不安は、発達過程において起こりやすい時期があります。
| 年齢 | 特徴 |
| 生後6ヶ月〜 | 親とそれ以外の人の違いが理解できるようになる。いわゆる「人見知り」が始まる時期で、親の姿が見えなくなると泣くようになる。 |
| 1歳〜1歳半 | ハイハイ、つかまり立ち、歩行ができるようになる時期。行動範囲が広がる一方で、親の後を追う「後追い」が強くなることがある。 |
| 3歳頃〜 | 言葉の発達や記憶力が向上し「待っていれば戻ってくる」と理解し、少しずつ落ち着く。 |
多くの場合は3歳から4歳頃にかけて自然に落ち着いていきます。ただし、入園、入学、進級、引っ越しなどの大きな環境の変化があると、一時的に強まることがあります。
母子分離不安は発達の中で見られる自然な反応ですが、分離不安障害は年齢に見合った範囲を超える強い不安が続く状態を指します。
大きな違いは「日常生活にどれほど影響が出ているか」という点です。子どもの場合、次のような状態が4週間以上続き、学校生活や家庭生活に支障が出ているときは、分離不安障害の可能性が考えられます。
【分離不安障害の主な症状】
「ただの甘え」と決めつけるのではなく、強い不安が長く続く場合は、専門機関(小児科や児童精神科など)への相談も検討してみましょう。

子どもが親から離れられない理由は1つではなく、いくつかの要素が重なり合って起こることがほとんどです。
ここからは、特に多く見られる3つの原因を紹介します。
次のような変化は、子どもにとって大きなストレスになることがあります。
このような環境の変化が起こることで、子どもは安心感を求めて「親と一緒にいたい」と感じやすくなります。新しい環境に適応しようとがんばっている証拠なので、まずは気持ちを受け止めてあげましょう。
環境的な要因だけでなく、生まれ持った気質や性格も離れられない理由の一つです。同じ環境で育っても、好奇心旺盛な子もいれば、慎重な子もいますが、どちらが良い・悪いということはありません。
心理学では、新しい場所や人に対して強く警戒するタイプを「行動抑制的」と呼び、次のような特徴があります。
このような気質は、不安を感じやすい一方で、危険に気づきやすい力も持っています。その子の個性として受け止め、対応するようにしましょう。
子どもは親の表情や声のトーンから感情を敏感に感じ取るため、親が不安を感じていると、子どもも同じように緊張しやすくなります。
例えば、入園のときに親が「泣かずに園に行けるかな」「本当に大丈夫かな」と心配しすぎていると、緊張が子どもに伝わって不安な気持ちが強くなることがあります。
また、親が先回りして何でもやってしまう過干渉の状態が続くと、子どもは「自分一人ではできない」と感じやすくなります。その結果、親がいないと強い不安を感じることがあります。突き放すのではなく、「困ったら助ける」という適度な距離感で見守ることが大切です。
ここでは、毎日の生活で無理なくできる関わり方のポイントを紹介します。
子どもの不安を和らげるには、言葉やスキンシップで愛情を伝えることが効果的です。まずは不安な気持ちを否定せず、「怖かったね」「寂しかったね」と気持ちを受け止めてあげましょう。子どもの頭を撫でたり、抱きしめたりすることも、安心感や愛情を伝えられます。
子どもから離れるときは「ちょっと行ってくる」などのあいまいな伝え方は避けましょう。「時計の針が3に来たら戻るよ」などと、具体的に見通しを伝えることが大切です。
「子どもに泣かれるのが嫌だから」と、何も伝えずにその場を離れると、気づいたときに子どもは不安になりますし、不信感にもつながります。「ママやパパは約束を守って、必ず戻ってきてくれる」という経験を積むことが大切です。
毎日短時間でも子どもと一緒に過ごすことで、心の安定につながります。「スマートフォンを見ながら」「家事をしながら」ではなく、短い時間でも、子どもと全力で遊んだり話を聞いたりする時間を作りましょう。
心が愛情で満たされると、子どもは安心して外の世界に目を向けられるようになります。寝る前に絵本の読み聞かせをする、帰宅後に抱きしめるなど、毎日同じタイミングで行うと、さらに安心感が強まります。
最初から長時間離れるのではなく、短い時間から始めて少しずつ慣らすことも有効です。まずは家の中で「トイレに行くから待っていてね」と声をかけ、姿が見えなくても声が聞こえる距離からスタートします。
次は、隣の部屋で洗濯物を干す、ゴミ出しで数分家を空けるなど、少しずつ距離や時間をのばしてみましょう。待っていてくれたら「待っていてくれてありがとう」「助かったよ」と褒めてあげてください。

子どもの分離不安は一時的なものが多いです。一方で、症状が強いときには、専門家に頼ることも選択肢の一つになります。
ここでは、受診や相談を考えたいサインを紹介します。
不安や緊張が強くなると、自律神経のバランスが崩れてしまい、身体に不調が現れることがあります。具体的には、登園・登校する日の朝に「お腹が痛い」「頭が痛い」「気持ち悪い」と訴えるケースが多く見られます。「休む」と決めると症状が消えることもありますが、仮病を使っているわけではなく、ストレスから解放されたことで症状が和らぐためです。
もし身体の不調が毎日のように続き、食事や睡眠がとれない、体重が減るなどの変化がある場合は、小児科などの医療機関に相談しましょう。
なお、朝起きられない、頭痛が続くといった症状は「起立性調節障害」という体の不調の可能性もあります。「心の問題」と決めつけず、まずは体の病気がないかを確認することが大切です。
分離不安の影響で、年齢相応の生活を送ることが難しい場合も、相談を検討するサインです。次のような場合は、一時的な行き渋りの範囲を超え、長期的に社会生活への参加が難しい状態を指します。
このような場合は「甘え」ではなく、専門的な支援が必要な状態かもしれません。第三者が介入することで改善のきっかけになることがあるので、早めの相談がおすすめです。
母子分離不安は、子どもの気質や環境などの複数の要素が原因になっていることが多いです。専門家に相談してアドバイスを受けることで、子どもに合った対応を考えやすくなります。
ここでは、代表的な3つの相談先を紹介します。
学校に通う子どもの場合、まずは通っている学校のスクールカウンセラーや養護教諭に相談してみましょう。スクールカウンセラーの多くは、臨床心理士や公認心理師の資格を持つ専門家です。養護教諭は保健室の先生で、子どもたちの身体と心を見守る役割があります。
学校での様子を見ているため、担任の先生と連携して、子どもに合った登校時間の調整や、別室登校などの配慮を検討してくれます。学校での子どもの姿を知ることで、家庭での関わり方の手がかりにもなるでしょう。
未就学児や乳幼児の場合は、まずは地域の保健センターや子育て支援センターに相談してみましょう。保健師、保育士、心理士などが在籍し、発育や発達の相談に応じています。
1歳半健診や3歳児健診などの乳幼児健診も、相談しやすいタイミングの一つです。健診は身体の成長だけでなく、心や発達の様子も確認する大切な機会なので、心配があれば相談してみるのも良いでしょう。
電話相談を受け付けている自治体もあります。誰かに話すことで安心したり、必要な対応を一緒に考えたりできるので、ひとりで抱え込まず、地域の力を上手に頼っていきましょう。
体の不調が強い場合や、長期間生活に支障が出ている場合は、医療機関の受診を検討しましょう。まずは、かかりつけの小児科で身体の病気がないかを確認し、必要に応じて児童精神科などを紹介してもらう流れが一般的です。
専門医による診断を受けると、プレイセラピー(遊戯療法)やカウンセリング、場合によっては漢方薬などの処方を含めた治療を受けられます。児童精神科は予約が取りにくいことが多いので、早めに問い合わせてみるのがおすすめです。
母子分離不安は、親と子どもにとって辛い時期ですが、心が順調に育っている証でもあります。焦って無理に引き離す必要はないので、子どもに合ったペースで少しずつ経験を重ねていきましょう。
また、毎日子どもに向き合っている親も、知らないうちに疲れがたまっています。辛いときや不安が強いときは、ひとりで抱え込まずに専門家を頼りましょう。